034 大木洋 余罪の追及

****1)大木洋

(エ)余罪の追及



一、 平成5年9月29日、私が余罪の追及などするなと抗議したのに対して、大木洋は国犯法の調査に際して、脱税以外の余罪を追及するのは当然であると居直った。

 

二、 私は、大木の言動を記録に残しておくために、平成6年1月17日に広島の大木洋に架電し、余罪の追及について改めて大木に質した。午後1時20分から30分間、2人で話し合った軌跡は録音テープに残され、15ページの反訳文となって、私の記録簿にファイルされている。

 ここに忠実に再現することとする。 ―



三、 山根:「大木さんが、去年の9月29日だったと思うんですが、私に教えて下さったことがありましたね。」

大木:「なんじゃろうか。」

山根:「おたくの三瀧(査察部第四部門統括国税査察官)さんが、組合長の岡島さんを尋問した際に、背任罪になるんじゃないかと言って、余罪の追及をされたことがございましたね。」

大木:「そうじゃったかいの。」

山根:「はい。私は、国犯法の調査の場で、背任とか横領とか言って余罪を追及するのは、おかしいんじゃないか、と言ってあなたに抗議しましたね。」

大木:「あー、思い出した。」

山根:「そのとき、私の抗議に対してあなたは、余罪を追及することは当然のことであって、むしろ公務員たるもの、余罪のおそれがある場合には積極的に追求しなければいけないと、おっしゃった。覚えていますか。」

大木:「ええ、覚えていますよ。当然のことじゃからね。」

山根:「犯則嫌疑者に、背任とか横領のような余罪があったら、自分たちは追及して、しかるべき手続をしたうえで、検察庁に告発する義務があるんだ。これは法律で定められていることで、これをきちんとしておかないと、検察庁に送った場合に、あとで検事さんに叱られるんだ、とおっしゃいましたね。」

大木:「ええ、言いましたよ。それで?」

山根:「私、どうしても納得がいかないものですから、その根拠を教えて下さいませんか。」

大木:「一寸、待って下さいよ。今、六法を持ってくるからね。」

― 大木、六法全書をとりに席を立った様子。

大木:「うん。これだ。刑事訴訟法の239条にキチンと書いてあります。」

山根:「え?何ですって?」

大木:「刑事訴訟法第239条。」

山根:「どう書いてあるんですか。」

大木:「まず1項でね、何人でも犯罪があると思料するときは、告発することができる、とあります。ですからね、一般国民は告発することができるんですね。」

山根:「なるほど。」

大木:「次に2項はね、官吏または公吏、官吏とは国家公務員のことで、公吏とは地方公務員のことですね。

 官吏または公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない、となっています。」

山根:「ほう、そうなんですか。」

大木:「はい。公務員の場合は告発をしなければならない、つまり告発義務が課されているんです。」

山根:「ああ、そういうことですか。だからあなた方は今、脱税ということで強制調査をなさっているけども、ほかの犯罪、たとえば背任だとか横領のようなことが調査の過程で分かった段階では、追及しなきゃいけないと。」

大木:「その通りです。」

山根:「余罪を追及して、必ずそれも告発されるんですね。」

大木:「いやいや、そういう訳ではありません。刑事訴訟法ではそういうふうになっているけれども、告発するかどうかは、こっちの問題でもあるし、また検察との話し合いの中でいろいろとあるんです。」

山根:「なんですって?告発するかどうか分からないんですか。あなたはさっき、公務員の場合は、告発しなければいけないとおっしゃったじゃないですか。」

大木:「できない、いいや、じゃけど、罰則規定がないんじゃもん。」

― 大木、シドロモドロとなった。

山根:「告発しなければいけないけれども、しなくてもいい訳ですか。」

大木:「うん、それはしなくてもよい。ただ、そういったことがね、ただ、そういったことが。」

― 大木、訳の分からないことを口走る。

山根:「罰則規定がないから、告発しなくてもいいということですか。」

大木:「いやいや、そういうことじゃないんだけども、今んとこ罰則規定がないんで、そういうことになれば、一応義務だけど。」

― 大木、何を言っているのか意味不明。

山根:「私、頭が悪いんで、あなたのおっしゃっていることがよく分からないんですが。」

大木:「・・・・。どう言ったらいいのか。

 私ら、検察に説明に行くんですが、その際、脱税の他に、こういう事実(犯罪)もありますという話をするわけなんです。

 これをキチッとしとかないと、あんたら、こんなこと知っとって何故言わなかったんだと言って、検察官に怒られるんですよ。」

山根:「なるほど、そういうことだったんですか。ついでにお聞きしておきたいんですが、強制調査をされる場合に、あなた方は嫌疑がかかっている人だけじゃなくて、たとえば、取引銀行だとか証券会社とかも調査されますね。」

大木:「反面調査のことですか。」

山根:「そうです。その反面調査の際に、それらの会社の中で、たとえば、横領だとか使い込みなどの事実が判明したときも、あなた方は、追及して告発する訳なんですか。」

大木:「はい。同じことですね。職務上でね、そういった犯罪の事実を知ったときにはじゃね、本当は告発せないけんのじゃけども。」



四、 10年前に、私が大木と電話でやりとりした記録を改めてトレースしてみて、何回か思わず吹き出しそうになった。

 私は、余罪の追及は国犯法の調査権の範囲を逸脱しており、違法であることを確認した上で、記録に残すことを目的として敢えて大木に電話をし、彼の本音を引き出そうとしたところ、私が当初想定していた以上の本音を詳しく語ってくれたのである。なかなか正直な人物である。



五、 余罪の追及は当然であるとする大木洋の独自の見解については、私の論評は差し控え、我が国税法学の第一人者とされている北野弘久日本大学名誉教授の名著の一節を引用するにとどめる、 ― 「国犯法上の調査権は、租税犯の疑いが存在する場合において、その証ひょうを発見・収集するためにのみ行使しうるものにすぎない。この調査権のあり方は、この調査権自体の目的・性格によって厳格に規制されるのである。
 もし、税務当局が右の目的・性格をこえてこの調査権を行使したことが明らかな場合には、それだけで当該調査権の行使は違法となる。」
「税法学原論 ― 第5版 ― 」(青林書院刊)P409~P410。

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