017 強制調査 二日目 ― 平成5年9月29日(水)

****3)強制調査二日目 ― 平成5年9月29日(水)

一、 午前10時、松江税務署、取調べ室。すでに藤原孝行、新本修司の二名が待機している。

 ポットに入れた野菜スープを持参。― 国税のお茶など飲めるか。



二、 私は、藤原と新本の二人に対して、厳重抗議を申し入れた。

― 誘導尋問をやめろ。

― 質問顛末書は、本人が話した通りに書け。デッチあげはやめろ。

― 威圧的な言辞は慎め。

― 余罪の追及などと言って、脅迫するな。

 以上、益田市畜産の岡島組合長と増田常務に対する違法な取り調べに関連して抗議。



三、 私は、益田税務署の取り調べの現場に電話をかけさせることにした。

 新本修司、市外通話なので、松江税務署の交換台を通してかけてくれる。



四、 組合の増田常務が電話口に出てきた。



山根:「昨日話したとおり、国税局の口車に乗らずに、あくまで真実、あなた方が実際に経験した事実だけを話してくれ。

 更に、質問顛末書にサインする時は、単に読み聞かせてもらうだけでなく、正副二通作るはずであるから、必ず、一枚は自分の手許において、キチンと何が記してあるか、自分の目で確かめてくれ。

 又、昨日の事実に反する供述の訂正を直ちに申し入れるように。」



五、 岡島組合長が電話を代わった。

 増田常務への電話と同様に、事実のみを話すべきことと、昨日行った虚偽の自白の訂正を直ちに行うべきことを伝え、担当の査察官に代わってもらう。



六、 担当の三瀧恒雄(査察第四部門統括国税査察官)が電話口に出てきた。

 私は、三瀧に対して、「背任など余罪をチラつかせて、脅迫しないように」申し向け、厳重に抗議した。



七、 私の抗議に対して、三瀧はかなり怒っているようであった。



山根:「このような状態で調査が続行されるのは不安だ。組合長については今後、私の立ち会いのもとで取り調べをしてくれ。」



八、 「断る!」― 三瀧が大声で怒鳴りまくる。耳が痛くなる。

 「静かに話したらどうか。」こちらも大声で注意する。

 電話の向こうに暴力団がいる。

 声の大きさでは、私も負けてはいない。

 私の声の調子もレベルアップし、暴力団モードにスイッチする。



九、 立ち合いを拒否されたため、本日の組合長への尋問は中止するように、三瀧に要求。これも暴力団によって拒否される。



一〇、それならと、昨晩おさらいした刑事訴訟法の知識を活用することにした。

 国犯法における強制調査は、臨検、捜索及び差押えの三つのみであって、犯則嫌疑者の取り調べには及ばない。即ち、任意調査であることだ。



一一、私は、三瀧に問いかけてみた、 ―



「では、組合長が、今日の取り調べは受けたくないと、自発的に申し出た場合には、どうなるのか。」

三瀧:「・・・。それは仕方がない。」三瀧の声のトーンが急に下がり、暴力団から、借りてきた猫になった。



一二、再度、組合長に電話を代わってもらう。



山根:「昨日も話したように、質問顛末書は一般の供述調書と同じようなもので、一度それにサインすると、それが仮に、事実に反することでも通ってしまう。

 後で覆すことが難しくなるので、絶対に妥協しないでもらいたい。

 私も嫌疑者となっているので、迷惑をこうむることになる。今のように脅したり、騙したり、誘導したりの尋問では、何がなされるのか不安である。

 あなた自身の意思で、今日の尋問は断ってください。」



一三、私のそばで、藤原孝行がシブイ顔をしている。ネズミを捕らえようとして、すんでのところで取り逃がしたドラ猫の顔である。



一四、統括査察官の大木洋が顔を出した。私は、大木に対して改めて厳重抗議をした。

 大木は、部屋を出て、別室で益田税務署にいる三瀧と電話連絡をしたようであった。



一五、大木は部屋に帰ってくるなり、余罪の追及の件について、メチャクチャなことを言い始めた。胸を張っている。



「公務員たるものは余罪の追及をし、他の犯罪の事実があれば告発しなければならない。刑事訴訟法に規定されていることであり、余罪追及は当然のことだ。」



一六、私は唖然として、大木のゆがんだ顔を凝視するばかりであった。

 国犯法上の調査権は、脱税の疑いがある場合に、その証拠を発見したり、集めたりするためのものだ。マルサに、背任とか横領の罪を追及する権利などあるはずがない。

 大木という男は、査察官としていったいどのような教育を受けてきたのだろうか。

 切れ味の鋭い日本刀を、やたら振りまわして遊んでいる、訳のわからないガキ大将のようなものである。危険極りない存在だ。



一七、藤原孝行に対して、私は、今日の質問顛末書の冒頭に、私が厳重に抗議したことをキチンと書き記すように要求した。



 藤原、拒否して曰く、「質問顛末書は、こちらが質問したことを、その範囲で記すことになっており、山根の抗議など書くことはできない。」



山根:「それはおかしいではないか。昨日、あなたは、この調書は嫌疑者が話したとおりのことをそのまま書くようになっているもので、仮に方言で話したら、方言で書く建前のものであると言ったではないか。」



藤原:「・・・・・」絶句。



 翌日、清書された質問顛末書には、私が厳重に抗議した旨が、その冒頭に記入してあった。



一八、私は、藤原に対して、捜査令状を再度見せてくれるように要求した。

 新本修司が令状を持ってきた。改めて、入念に読む。

 令状のコピーを要求したが断られる。それではと、書き写してもよいかと尋ねたところ、藤原がうろたえている。

 即答できないとして、別室にいる大木洋に相談に行ったようである。

 帰ってきて、筆写ならOKということであったので、令状の主要部分を書き写す。



 藤原曰く、「今まで、捜査令状など書き写したものは一人もいない。山根がはじめてだ。」



 山根、無視。グジグジ言う男である。



一九、二日目の午前中は、ワイワイガヤガヤで終る。

 午後は2時からと約束し、昼メシを食べに家に帰る。



二〇、午後2時。初日の質問顛末書をまとめておいたから、眼を通して、間違いがなければ、サインをするように、藤原が求めてきた。

 見る。名前、本籍、住所、職業、事務所、経歴、会社、佐原と吉川に出会った経緯など、どうでもいいことで、かつ、事実に即してまとめてあったので、快くサインし、捺印する。



二一、藤原に対して、私がサイン、捺印した質問顛末書をコピーするように要求したところ、拒絶された。

 それではと、書写を申し出る。また、うろたえている。

 藤原は別室に赴き、大木洋と相談してきたようであった。しぶしぶながら書写を認めてくれた。



二二、午後2時30分から5時30分まで、藤原の取り調べを受ける。

 益田の組合関連で押収された資料が、松江の捜査本部に次々とFAXで送られてきている。

 FAX資料の説明を求められた。携帯電話とFAX。情報化時代のガサ入れである。



二三、午後5時30分。質問顛末書を再度吟味し、書き写す。

 私のほうから、時間のかかる書写を要求した手前、時間が遅くなるのを受忍することにした。

 翌日の取り調べも、午前10時からと約束し、午後9時頃帰宅。

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