前代未聞の猿芝居―⑳

  1.  A社の社長夫人、専務及び専務夫人の3人が逮捕されたのは、平成30年11月8日のことであった。
    3人が逮捕された翌日、平成30年11月9日に勾留状が発行され、3人は松江刑務所に勾留されることになった。
    3人が再逮捕されたのが平成30年11月28日。その翌日(平成30年11月29日)に再び勾留状が発行され、勾留が継続されることになった。

    2回にわたる社長夫人の勾留状の発行は、次の2人の裁判官によってなされている。即ち、

    +逮捕の翌日(平成30年11月9日)の勾留状は、
    松江地方裁判所 裁判官  木村理絵
    +再逮捕の翌日(平成30年11月9日)の勾留状は、
    松江簡易裁判所 裁判官  小林幹典

    によってそれぞれ発行されている。

    この2つの勾留状、これまで筆者が述べてきたところと大きく食い違っている。極めていいかげんなシロモノだ。裁判官は何も考えずに、ただ単に検察官に言われるがままに勾留状を発行し、盲目判(めくらばん)を押したものと思われる。
    何故か。何故勾留状がいいかげんなシロモノであると言えるのか。以下、その理由を述べる。

    社長夫人を身柄拘束した勾留状は、

    「刑事訴訟法60条1項各号に定める事由」(注、勾留の要件のこと)

    として、

    “下記の2,3号に当たる。
    一 被疑者が定まった住居を有しない。
    二 被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある。
    三 被疑者が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある。”

    と記載する。

    勾留状に引用されている刑事訴訟法60条1項は、被告人の勾留の要件を規定するものであるが、刑事訴訟法207条1項によって被疑者勾留にも準用される。

    勾留の要件

    「裁判所(裁判官)は、被告人(被疑者)が罪を犯したことを疑うに足りる相当なる理由がある場合で、左の各号の一つにあたるときは、これを勾留することができる。
    一 被告人(被疑者)が定まった住居を有しないとき。
    二 被告人(被疑者)が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
    三 被告人(被疑者)が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
    (括弧内は筆者。裁判所を裁判官と読み替え、被告人を被疑者と読み替える。)

    被疑者の身柄拘束を認定した勾留状は、刑事訴訟法60条1項の主文の

    「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」

    については、勾留状記載の「被疑事実の要旨」によって認定し、更に、限定列挙されている3つの要件については、一号の住所不定の要件をはずし、

    二号の罪証隠滅のおそれ、と
    三号の逃亡のおそれ

    に絞って認定している。

    ところが本件の社長夫人については、すでに述べた(「前代未聞の猿芝居-⑭」)ように、

    「調査協力をしなかったこと」

    が、逮捕の理由(要件)と身柄拘束(勾留)の理由(要件)とされているのである。

(この項つづく)

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