査察Gメンを犯罪人として告発!!-⑪

 これまで金子宏氏の『租税法』第18版に引用されている判例1.から判例5.までの5つの最高裁判例を取り上げてきたが、それらはいずれも、
「詐偽(偽り)その他不正の行為」
に関する判例であった。

 金子宏氏は、「偽りその他不正の行為」については、それら5つの最高裁判例を引用することでその説明を終え、次に

「逋脱犯が成立するためには、租税債権の侵害がなければならない」(『租税法』P.923)

とし、

「したがって、法定納期限内に虚偽申告した場合は、逋脱犯は法定納期限経過のときに成立すると解すべきであり、その後に「更正あることを予知」しないで自発的に正しい内容の修正申告をし、これによる増差税額を納付したため、重加算税が課されないという場合においても、逋脱犯の成立は影響を受けないと解すべきである」(『租税法』P.923)

などと、まさに目を疑うような暴論(ぼうろん。常識をはずれた、乱暴な議論-新明解国語辞典)を展開する。判決文でしばしば用いられる、いわゆる“独自の見解”(一般には通用しない一人よがりの考え方のこと)である。

 以下、金子宏氏の所論が“独自の見解”である所以(ゆえん)を述べる。
 まず、金子氏はいきなり、

「逋脱犯が成立するためには、租税債権の侵害がなければならない」

などと切り出しているがこれは一体何ごとか。金子氏の所論は、この出発点から誤っている。何故か?

 逋脱犯は犯罪だ。犯罪が成立するためには、犯罪構成要件を充(み)たしていることが必要だ。逋脱犯の犯罪構成要件は、あくまでも

「偽りその他不正の行為」と
「税を免れたこと」

の二つであり、この二つ以外には存在しない。
 金子宏氏が述べている“租税債権の侵害”は、たかだか違法性阻却要因、あるいは可罰的違法性の問題であるにすぎない。
 つまり、本来金子宏氏は、今一つの構成要件である、

「税を免れたこと」

を論ずべきであるにも拘らず、それをすっ飛ばして構成要件ではない租税債権の侵害にスリカエている。
 その結果、

「したがって、法定納期限内に虚偽申告した場合は、逋脱犯は法定納期限経過のときに成立する」

などという、的外れの結論が導き出されているのである。
 金子宏氏がここで帰結しているのは、逋脱犯の既遂時期だ。一般に、犯罪が既遂か未遂かの問題は、犯罪の構成要件とは別の問題である。

 以上のように金子宏氏は、「税を免れたこと」という構成要件の問題を逋脱犯の未遂・既遂の問題にスリカエているのであるが、その既遂時期に関する、

「法定納期限内に虚偽申告した場合は、逋脱犯は法定納期限経過のときに成立する」

とする結論自体も誤りである。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――
 ここで一句。

 

”袖の下背広のときは内ポッケ” -綾部、ナキヨルベ

 

(毎日新聞、平成28年3月10日付、仲畑流万能川柳より)

(「内ポッケ大臣」の甘利明代議士は政治家二世。“役人の子はにぎにぎをよく覚え”-誹風柳多留)

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