査察Gメンを犯罪人として告発!!-⑥

 前回述べた費用・収益についての発生主義と実現主義、会計監査の現場では常に問題となることだ。ことに収益(売上)をいつ認識して計上するかについては一筋縄でいく簡単な問題ではなく、時に企業と会計監査人との間で熾烈なバトルが展開されることがある。



 たしかに租税は国家の側からすれば収入、つまり収益であり、一般企業の売上(収益)に相当するものである。企業会計上、いつの時点で収益として認識するかについては、収益の発生の時点ではなく、それより後の収益の実現の時点とするのが原則だ。これを収益実現主義の原則と言っている。

 ただ企業会計と異なるのは、一部発生主義によっている租税(収益)があることだ。前回『納付すべき税額の確定』として要約した中の納税義務の成立(租税収益の発生)と同時に、特別の手続きを要しないで納付すべき税額が確定する国税のことで、1)の予定納税以下、6)の延滞税及び利子税まで限定列挙された6つの税目のことである。

 つまり、この6つの税目以外の全ての税目は、納税義務が成立(国家の収入金としての租税収益の発生)したことを確認した上で、更に特別の手続きを加味することによってはじめて納付すべき税額が確定(国家の収入金としての租税収益の実現)すると定められているのである。

 考えてみれば、当然のことが定められているだけのことだ。所得税、法人税、相続税、消費税といった、国家財政の中枢を占める税目は全て申告納税方式によるものであるが、それらが納税義務の成立時(=租税収益の発生時)に確定するなどと定められていたら一体どうなるのか。
 納税義務の成立といっても抽象的なもので金額的に捉えることができない、まるで雲をつかむような話だ。これでは、国家の予算も組めなければ、決算をすることもできない。つまり、キチンとした毎年の国家の財政計画(予算)を組み、決算に仕上げるためには具体的な税額の算定がなされていなければならない。この要請に応えるものが、特別の手続きを経た上で税額を確定する方式、中でも申告納税方式であるということだ。
 具体的に言えば、暦年中になされた確定申告(修正申告を含む)上の税額を集計し、それに税務署長が行った処分額(更正・決定による追徴額)を加えたものが、申告納税方式を採用している主たる税目にかかる暦年中の国庫収入(歳入)ということなのであろう。

 このことは逋脱犯(ほだつはん)の成立時期の問題、つまり逋脱犯という犯罪がいつ既遂になるのかの問題に密接にからむことになる。
 逋脱犯の構成要件は二つ、一つは「偽りその他不正の行為」、今一つは「租税を免れたこと」であるが、この中の「租税を免れたこと」とは、特別な手続き(所得税・法人税等の場合は“申告納税方式”のこと)によって確定した「納付すべき税額」を免脱(めんだつ。まぬがれのがれること。)したことだ。つまり、構成要件では「免れた」となっており、「免れようとした」とはなっていないため、逋脱犯は未遂行為を含まず、既遂行為のみを対象としたものであることが分かる。
 この既遂時期についても金子宏氏は、実体法である国税通則法に反する誤った論理を展開しているが、これについては判例6.判例7.(後述)のところで詳しく述べる予定である。

 判例1.に関して最後に重要な問題点を指摘しておかなければならない。これまでの問題点が根底から吹っ飛んでしまいかねないほど基本的な問題だ。シェークスピアの顰(ひそみ)に倣(なら)えば、“Last but not least”(最後になったが決しておろそかにしたわけではない)である。
 それは、この判例1.が物品税の申告書(課税標準申告書)を提出していなかったケース(不申告)についての判例であることだ。つまり、内容虚偽の申告書を提出したケースの判例ではなく、申告書不提出犯についての判例であったということだ。改めて、判例1.を読み返してみたところ、確かに「単純不申告」「不申告」とされていて、「過少申告」とはなっていない。
 この申告書不提出犯は、平成23年6月の法改正によって初めて脱税犯とされたもので、それまでは脱税犯ではなかったものである(「査察Gメンを犯罪人として告発!!-③参照のこと」。
 従って、逋脱犯(狭義)の構成要件である、「偽りその他不正の行為」という犯罪構成要件とは無縁の租税犯だ。

 と、ここまで書き進めてきて念の為、旧物品税法を引っぱり出してみた。以下は罰則規定が定められている第十八条である(六法全書昭和三十六年版、有斐閣。P.509)。

「第十八条
①左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ五年以下ノ懲役若ハ五十万円以下ノ罰金ニ処シ又ハ之ヲ併科ス
 一 政府ニ申告セズシテ第一種第七十二号ニ掲グル物品ノ小売業ヲ営ミ又ハ第一種若ハ第二種ノ物品ヲ製造シタル者
 二 詐偽其ノ他不正ノ行為ヲ以テ物品税ヲ逋脱シ又ハ其逋脱ヲ図リタル者
②前項ノ犯罪ニ係ル物品ニ対スル物品税相当額ノ十倍ガ五十万円ヲ超ユルトキハ情状ニ因リ同項ノ罰金ハ五十万円ヲ超エ当該相当額ノ十倍以下ト為スコトヲ得
③第一項ノ場合ニ於テハ犯人ヨリ直ニ其ノ物品税ヲ徴収ス(下線は筆者)」(物品税法昭和15年3月29日法律第40号、改正昭和24年12月27日法律第286号。ちなみに、この法律286号には、内閣総理大臣吉田茂、大蔵大臣池田勇人の署名がなされている。)

 この条文の中には、“逋脱シ(タル者)”だけでなく、ナント、“逋脱ヲ図リタル者”まで入っているではないか!!!
 これは、物品税の脱税犯は既遂犯だけでなく、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者、つまり未遂犯をも処罰の対象になっていることを意味する。つまり、物品税(間接税)の処罰規定は、「税を免れた者」(既遂犯)のみを処罰の対象とする、法人税とか所得税などの直接税の規定とは異なり、「税を免れようとした者」(未遂犯)をも処罰の対象としていたのである。
 このような物品税の規定に加えて、課税物件とか課税標準などが具体的かつ一義的に定められている物品税の規定に引きづられて、判例1.は申告書不提出犯についても「逋脱行為」を認定したものであろう。

 脱税犯の基本判例とされている判例1.は、物品税(間接税)の、しかも、申告書不提出犯における「詐偽その他不正の行為」についての判例であったということだ。金子宏氏は、「不申告」(申告書不提出)と「過少申告」(申告書提出)とを何食わぬ顔をしてスリカエていることになる。

 判例1.について要約すれば次の通りとなる。問題点は次の5つ。
+国税通則法(実体法)が施行される前の事件についての判例であり、実体法の規定に反する内容(ことに、納付義務の成立と「納付すべき税額」の確立に関して)の判例であり、先例価値がない。
+物品税(間接国税)についての判例であり、間接国税以外の国税(所得税・法人税など)の範とすることができない判例である。
+物品税の、しかも申告書不提出犯についての判例であり、申告書不提出犯が処罰の対象となっていない所得税、法人税等の先例判決とはなり得ない。
+金子宏氏は、上記1.2.3.の事実を秘匿して、判例1.を狭義の逋脱犯の構成要件である「偽りその他不正の行為」の根拠判例としている。スリカエである。
+金子宏氏は、申告納税制度、各種税法、国税通則法の制定に事実上の当事者として深く関わっており(このことについては後述)、4.で指摘した秘匿行為は意図的なものである。
 私が金子宏氏を、敢えて「詐欺師」とか「ペテン師」呼ばわりしたのは、上記4.と5.による。まさに、曲学阿世(きょくがくあせい。学者としての良心を曲げてまで為政者(当事者)や大衆の御機嫌取りにうき身をやつす学者。-新明解国語辞典)の輩(やから)である。

(この項つづく) 

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 ここで一句。

 

”もう少し知りたい頃が絶頂期” -神戸、芋粥

 

(毎日新聞、平成28年3月3日付、仲畑流万能川柳より)

(“知らぬが仏”)

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