「福沢諭吉の正体」-①
- 2014.08.12
- 山根治blog
福沢諭吉といえば、日本の近代化に多大な功績を残した人物であるというのが一般的な理解である。一万円札の肖像画にも用いられており、日本だけでなく世界においても、日本人として最も名の通った人物だ。
人物のプロフィールとして、広辞苑は次のように簡潔にまとめている。「福沢諭吉。思想家.教育家。豊前中津藩の大坂蔵屋敷で生れる。緒方洪庵に蘭学を学び、江戸に蘭学塾を開き、また英学を研修。幕府使節に随行し三回欧米に渡る。1868年(慶応四)塾を慶應義塾と命名。明六社にも参加。82年(明治一五)「時事新報」を創刊。独立自尊と実学を鼓吹。のち脱亜入欧・官民調和を唱える。著「西洋事情」「世界国尽」「学問のすすめ」「文明論の概略」「脱亜論」「福翁自伝」など。(1834-1901)」
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」-このフレーズは、『学問のすすめ』の冒頭を飾る、あまりにも有名な言葉である。学校教育の場において、子供の時から福沢諭吉の言葉としてたたき込まれてきたものだ。
白潟小学校4年生の社会科の学習。恩師柿丸賢吉先生(「冤罪を創る人々ー096 原体験への回帰」参照)から、「五箇条の誓文(ごかじょうのせいもん)」と共に、明治維新の中核的な思想としてクラス全員が暗記させられた。今から60年以上も前のことだ。
「天は人の上に…」の文句は短くて覚え易いものであったが、「五箇条の誓文」にいたっては言葉が難しい上に五つもフレーズが連っているために、暗記をするのに難渋した。
一つ、広ク会議ヲ興(おこ)シ万機公論ニ決スヘシ。
二つ、上下(しょうか)心ヲ一ニシテ盛(さかん)ニ経綸(けいりん)ヲ行フヘシ。
三つ、官武(かんぶ)一途(いっと)庶民ニ至ル迄(まで)其(その)志(こころざし)ヲ
遂(と)ケ人心ヲシテ倦(う)マサラシメン事ヲ要ス。
四つ、旧来ノ陋習(ろうしゅう)ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ。
五つ、智識ヲ世界ニ求メ大(おおい)ニ皇基(こうき)ヲ振起(しんき)スヘシ。
今改めて書き出してみると難解な言葉のオンパレードである。意味は後からついてくる、とにかく丸暗記せよ、これが柿丸先生の厳命であった。
クラス全員が暗記するまでに10日以上もかかったのではないか。一人一人立ち上って暗唱させられ、うまく言えなければ家に帰してもらえなかったのである。
私は生まれつき記憶力がさほどいいほうではない。そのためか、暗記は大の苦手であった。
ところが、やっとの思いで「五箇条の誓文」を暗記したおかげで、苦手意識がなくなってしまった。コツさえ覚えれば記憶力には関係なく、誰でも簡単に暗記できることが分かったのである。覚えようとして意識を集中させるだけでいい。暗記術の発見だ。この発見は、その後の私の人生において、どれだけ役に立ったのか図り知れない。柿丸先生に感謝すること頻(しき)りである。
日本が近代化の道を歩み始めたとされるのが1868年。慶応4年であり、明治元年だ。250年続いた徳川幕府が崩壊し、日本は西欧並みの近代国家の仲間入りを果した。暗黒の封建時代が終わりを告げ、輝かしい近代社会の幕が明けたのである。明治のご一新、明治維新であり、文明開化である。
これが、日本における明治維新に対する一般的な理解、つまり歴史認識だ。私も最近に至るまで、さしたる疑いを抱くこともなく、当然のことのように以上のような歴史認識を受け入れてきたのは事実である。
堰(せき)を切ったように流れ込んできた西欧の文物、中でも西欧流の風習とか学問は、古来から日本にあったものに比較して、当然のことのように一段と秀れたものと見なされた。一方で、古来から受け継がれてきた多くのものが、文明開化を阻害する“旧来の陋習”として排斥されたのである。
歌麿、北斎などの浮世絵とか、今では国宝クラスの書画、工芸品、仏像が反古(ほご)同然の評価で売買されたり、タダ同然で取引され、そのほとんどが海外に流出していった。西欧の人達はその芸術的価値をしっかりと見抜いていたのである。
レンガ造りの建物、ザンギリ頭と洋装。西欧のモノマネの最たるものは、鹿鳴館だ。欧化政策の象徴となったものであるが、当の西欧の人達からは滑稽な猿マネと揶揄(やゆ)され、マンガの恰好の題材となった。
学問についても同様だ。西欧の学問のごく一部、しかも内容的に初歩的かつ皮相的なものが、あたかも絶対の真理であるかのように喧伝(けんでん)され持ち込まれた。学問ならぬ、学問もどきである。
このような怪しげな学問の旗振り役を演じた中心人物こそ福沢諭吉であった。
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ここで一句。
(もともと日本には混浴文化の伝統が。咎めるどころか老若問わず歓迎です。)
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