ゲームとしての犯罪 -21
- 2006.09.26
- 山根治blog
エフェクター研の上場初年度の売上高のうちの5億円は、粉飾と疑われても仕方のないものでしたので、3月24日付のプレスリリース(完全子会社化)が出される前の段階で、取引の相手先である株式会社メディカルシステムネットワーク(以下、MSN社)は一体どのような会社なのか、更には支払ったとされる5億円の契約金はどのように処理されているのか調べてみました。
MSN社の第7期(平成17年9月期)の有価証券報告書は、平成17年12月26日に提出・開示。いつものようにネットから紙にプリントして、全てのページに眼を通します。94ページ。
MSN社は、医薬品売買仲立ちからスタートし、平成14年3月上場するや、主に北海道内の調剤薬局を買収して規模を拡大しています。グループ(連結)としての売上高は、175億円、そのうちの94%の165億円が調剤薬局(99店舗)事業によるものです。尚、MSN社単体の売上高は6億円。
平成11年に設立され、そのわずか2年半後の平成14年に上場している会社としては、比較的手堅い経営がなされているようです。
ただ、収益性がさほど高くない上に、鈍化傾向にありますし、財務的には、負債比率が高く(78%)、しかも、有利子負債依存度(負債資本合計のうちで、有利子負債の占める割合)が49%と、新規上場会社としてはかなり高い水準で、財務安定性にやや欠けるところがあります。
上場の経緯については無理な小細工がなされている形跡はありません。
MSN社は、上場会社の信用力をテコにして、金融機関から資金を調達して、調剤薬局を次から次へと買収して大きくなってきた会社であるといえるでしょう。
この点、株式市場を騙して資金を調達してきたライブドアとは異質の会社です。つまり、真面目なフツーの会社であるということです。
このようなMSN社が何故、粉飾の疑いが濃厚である5億円の取引の片棒をかついだのでしょうか。どうにも腑に落ちませんので、この5億円がMSN社においてどのように処理されたのか調べてみました。
その結果、-
損益計算書においては、単体、連結ともに5億円の費用計上がなされている形跡がありません。それぞれの販管費、営業外費用、特別損失の中にそれらしき項目が見当たらないのです。
とすれば、貸借対照表に計上されているはずです。検討してみたところ、
単体では、関係会社長期貸付金1,753百万円の中に、連結では、長期前払費用597百万円の中に計上されているらしいことが判明。
つまり、MSN社の損益計算においては全く関係がなく、問題があるとすれば、貸付金(単体)と前払費用(連結)の資産性であり、回収可能性だけになります。
結果的に見れば、この5億円はMSN社に返還されていますので、貸付金、あるいは前払費用に計上されていたことについては、企業会計の上からは問題がないことになります。
MSN社の田尻稲雄社長は、長年医薬品業界で仕事をしていますので、エフェクター研から持ちかけられた、MDヘパ細胞の供給が、昨年の時点で現実的に可能であるかどうかについては、知悉していたことでしょう。しかも、5億円といえば、単体での売上が6億円余りしかなく、しかも資本調達は大半が借入金等の外部資金に依存しているMSN社にとって、おろそかにできる金額ではありません。
田尻氏はエフェクター研の内実を十分に知った上で、エフェクター研の5億円の売上に協力したものと思われます。自らの会社であるMSN社さえガードできれば構わないとでも考えたのでしょうか。
いずれにせよ、5億円というお金は、MSN社→エフェクター研→メディシスサイエンス→MSN社と、エフェクター研の決算期を一期だけはさんで、一年もたたないうちにMSN社に還流しているのです。取引が外部をグルッと一回りして元に戻ってくる、いわゆるUターン取引といわれるものです。
上場直前期(平成16年5月期)の売上高478百万円のうち、
+金澤Teak Kim氏の会社である、ファイナンス アンド テクノロジー インターナショナル インクへの売上、300百万円(62.7%)
+松村眞良氏の会社である、株式会社メドレックスへの売上、105百万円(21.9%)
と、実に85%が「創薬共同開発」の名目で計上されていることも含めて、エフェクター研は、なんとも怪しげなことをする会社であると言われても仕方ないでしょう。
ちなみに、金澤氏も松村氏も、田尻氏と同様にエフェクター研の上場時点での大株主(それぞれ、10,600株(7.6%)、1,600株(1.1%))であり、エフェクター研の決算内容に関してバリバリの利害関係を持っている人達です。更に上場を指南したとされるIPOコンサルの沼田功氏も、上場時点で500株のストックオプション(顧問という立場でファイブアイズ・ネットワークに割り当てられています)が付与されていますので、前記の3氏と同様に、エフェクター研の業績を実際よりよく見せかける“動機”が存在します。
更には、金澤氏も松村氏も、平成16年5月期だけでなく、平成17年5月期でも、同じ名目で、それぞれ60百万円、20百万円、エフェクター研の売上に協力しています。
金澤氏の会社、ファイナンス アンド テクノロジー インターナショナル インクは、韓国のソウルにある会社ですが、一年程前、ある週刊誌の記者から電話を受けたことがあります。この記者氏、エフェクター研の上場の不透明な経緯について取材しており、金澤氏の会社の実態を調べるために韓国にまで飛んだといいます。煙に巻かれて帰ってきたらしく、取材が行き詰っているようでした。
今の段階で粉飾決算であるとまでは断定できませんが、まともな監査人であるならば、エフェクター研の平成16年5月期だけでなく、平成17年5月期の決算書に対しても、適正意見を表明するのをためらったことでしょう。
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ここで一句。
(わが日の本に、あふれる美人、メデタクもあり、メデタクもなし。)
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