093 訴追システムの制度疲労と検察官のモラルハザード

*(2) 訴追システムの制度疲労と検察官のモラルハザード

一、 三井氏は、長年検事として人を断罪する立場にあった。それが一転して断罪される立場に立たされることになった。

自らが逮捕勾留されてはじめて、現在の訴追と裁判制度の不合理さを痛感した旨、同氏はしばしば言及している。

三井氏は、「私は29年間、検事としてあらゆる事件を処理し決裁したが、このような事件(筆者注、― およそ犯罪とは言えないような些細かつ形式的な事柄)で人を逮捕した経験はない。恐らく検察史上初めてであろう。」とし、「これは公訴権の濫用である。」と指摘している。(同書、127ページ)

二、 公訴権の濫用、―
確かに同氏の場合は、その通りなのであろう。しかし、同氏が「検察史上初めてであろう」と言及しているのは、いかがなものであろうか。
私の場合の別件逮捕についても三井氏と同様に言いがかりとしか表現しようのないものであり、明らかに公訴権の濫用と言えるものであったし、さらには一般に別件逮捕と称されているものはほとんど全てが公訴権の濫用に該当するのではないか。
別件逮捕ではなくとも、何故訴追するのか疑わしいケースが、とくに最近多くなってきているように思えてならない。
日本の訴追システムの制度疲労に加えて、検察官のモラルハザード(倫理観の欠如)がその根底に横たわっているようである。

三、 三井氏はまた、訴追システムと一体となっている未決勾留制度についても、その運用が不当かつ不合理であることを力説している。現職検事のときには考えてもみなかったことが、自ら逮捕勾留されてはじめて身にしみて分かったというのである。
自白をせずに否認を通している限り、なかなか保釈にならないことについて、同氏は再三にわたってその不当性を訴えている。私の場合は291日、三井氏の場合は325日の間、極端に自由が制約された状況の下で、狭い閉鎖空間に閉じ込められたのである。

四、 その他に三井氏は、検察官が接見禁止を容易に裁判所に請求し、裁判官も実情をほとんど顧慮することなく安易に認めている現実にも触れているし、検察が世論を操作するために、故意に偽りの情報をリークし、マスコミは無批判的に偽りの情報をタレ流す現実にも触れている。
これらのことが、30年近くも検察一筋で働いてきた法曹家の口から発せられたことは、誠に重いものがあると言わなければならない。たしかに、検察官はもとより、裁判官も、現実の訴追システムの実態をよく理解していないのではないか。

五、 三井氏のように、全ての検事や裁判官が身をもって実際に逮捕、勾留、訴追される経験をするのが、不当かつ不合理な訴追システムの実態の理解には最良であろう。
しかし、現実にはそうもいかないので、彼らに擬似体験を課してみたらどうであろうか。逮捕、勾留、訴追のシミュレーションプログラムを作り、検事や裁判官を実際に10日とか1ヶ月くらい拘置所とか代用監獄にぶち込んで体験させるのである。
検察官とか裁判官に、このような擬似体験をさせることによって、少なくとも国民を人間として見ていないような歪んだエリート意識や傲岸不遜な思い上がりが多少なりとも影をひそめるのではなかろうか。
尚、三井環氏のホームページのアドレスは、 http://www012.upp.so-net.ne.jp/uragane/ である。

 

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