089 横山和可子

*(6) 横山和可子

一、 鳥取地方検察庁検事。

山根会計事務所の職員大原輝子氏と古賀益美氏及び吉川春樹を尋問。

二、 大原氏は、私が昭和51年に開業した一年後に入所した最古参の職員であった。会計事務所の職員としては超のつくベテランであり、私の事務所のシンボルのような存在であった。事務所の経理をも担当しており、事務所の金銭の動きは全て掌握していた。

三、 横山和可子は、大原氏を被疑者として在宅のまゝ取調べたが、常に逮捕を匂わせ、大原氏を脅した。
大原氏はいつ逮捕されてもいいように、取調べのために松江地方検察庁に出頭する際には、常に下着等の着替一式を持参していた。

四、 横山は、大原氏を取調べて、合計で21通の供述調書を作成した。それらは、平成8年1月30日付で始まり、同年3月6日付で終っている。
大原氏の供述調書が房内に差し入れられ、ひととおり目を通したとき、さすが大原氏と感嘆したことを鮮明に思い出す。
複雑な金銭の流れが整然と調書に表現されており、見事なものであった。
大原氏の芯の強い毅然とした性格が、いかんなく発揮されており、横山のいかなる誘導尋問にも一切まどわされることはなかった。
自ら知っていることは、理路整然と陳述し、自ら知っていないことについては、決して憶測して陳述したりしてはいなかった。
その点、立石英生によって嘘の自白を連発させられた小島氏とは決定的に異なっていた。

五、 今一人の職員古賀益美氏は、大原氏よりいく分若手であり、私の秘書的役割を担っていた。私の個人的なことを含めて事務所の内実を知る立場にあった。
当初、古賀氏を取調べたのは、松江地方検察庁副検事の野津治美であったが、後に横山和可子にかわった。

六、 横山は松江地方検察庁の3階にある一室で古賀氏を尋問した。それは検事の右手、書記官の後ろにマジックミラーとおぼしき横長の大きな鏡のある部屋であった。

古賀氏は次のように語る、 ―

「横山和可子は、丸顔で小太り。男まさりの野太い声は、廊下を隔てた控え室まで響いた。顔のつくりは、必ずしも上等とは言い難い。尋問の途中、ときおり立ち上がっては、パンツのポケットに手をつっこんで、肩をゆするようにして歩き回る癖があった。」

七、 検事横山が、なんとか嘘の自白を引き出そうと、やっきになっていたので、なんということをするオンナだと思って、目をつぶって黙っていたところ、検事は次のように悪態をついたそうである。

『こうなった以上、山根会計がつぶれることは間違いない。アンタはこれからの生活をどうするんだ。え?山根の人生もこれで終わりになるのに、山根に忠義だてをしているアンタも、かわいそうな女だ。』

古賀氏は、横山の、恥ずかし気もなく人前にさらしている顔をまじまじと見つめ、心の中でつぶやいたという。

― これからの生活のことなど、余計なお世話だ。かわいそうな女だなんて、アンタにだけは言われたくない。一度、横の鏡と相談してみたらどうか。

横山は、松江市の某開業医の親戚だという。

 

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