疑惑のフジテレビ -4
2006-02-14
前回私は、フジテレビがライブドアにオモテ社会の太鼓判を押した、と申し述べました。
このことが、一体何を意味するのか、具体的に考えてみることにいたします。
平成17年4月18日、フジテレビとライブドアは、3ヶ月にわたるスッタモンダの大騒動の末に、突然世間をアッと言わせるような和解をいたします。
この和解はあきれるばかりの茶番劇でした。サラリーマン経営者であるフジテレビ経営陣が自らの保身を考えるためでしょうか、440億円もの会社の金を気前よく使って、ライブドアというチンピラ・ギャング団と衆人看視の中で手を結んだのですから、前代未聞の不祥事といってもいいでしょう。
和解の骨子は、フジテレビが、
- ライブドア側が所有しているニッポン放送株を高値で引き取ること、
- ライブドアの440億円の第三者割当増資に応ずること、
この2つでした。
1.については、株式の買取価額に若干の問題点はあるものの、フジテレビの経営陣の裁量の範囲内であり、とりたてて大きな問題はないとしてもいいのかもしれません。
問題なのは2.です。
日枝会長は、東京地検特捜部による摘発のあとになって、開き直って、
“だまされたということです。あんな会社だとは思わなかった。増資に応ずる前に会計事務所に依頼して資産の査定(注.デュー・デリジェンスのことのようです)もしているんですから。”
と、弁解しています。このような弁解が果して通るものなのでしょうか。とても通りそうにありません。
このような言い訳は、当初の440億円の第三者割当に応じた経営判断の重大な誤りに、更に誤りを加えるものであるといえるでしょう。誤りに誤りを重ねる愚行とでも言えるでしょうか。
何故か。
440億円という巨額の出資は、フジテレビでなくとも経営上極めて大きな問題です。そのためでしょうか、あるいは後日経営責任を問われるときに備えた、いわば免罪符のためでしょうか、フジテレビは内部での検討にとどまらず、外部の専門機関にライブドアの調査を依頼しています。
4月18日に和解の基本合意がなされてから増資の払込期日とされた5月23日までの間に、フジテレビはライブドアについてデュー・デリジェンスを実施することが、基本合意書の中に明記されていました。
デュー・デリジェンス(以下、デューデリと略します)。
これは、企業買収(M&A)をしたり、あるいは増資とか社債を引き受けたりする際に行なう事前調査のことです。企業が重要な経営判断をする場合に、相手方の実態を把握し、問題点の有無を洗い出すために、専門家(弁護士とか会計士など)に依頼して調査をすることをデューデリといっています。
日枝会長は、
“会計事務所に頼んで資産の査定をしてもらった。”
と言っているようです。これがデューデリのことであるのか今のところはっきりしませんし、具体的にどのようなデューデリがなされたのか明らかにされていません。
一般にデューデリという場合、資産の査定はもちろん重要な項目ではあるものの、これにとどまるものではありません。通常、3つの観点から企業の実態に迫り、問題点を洗い出すものとされています。つまり、
- 事業の実態
- 財務の実態
- 法的問題の有無(コンプライアンス-法令遵守)
の3つの観点からデューデリがなされます。
これらの3つは、それぞれが独立したものではなく、相互にからみあっていますので、便宜上3つの切り口があると考えたほうがいいでしょう。
日枝会長が口にした資産査定は、上記の「2.財務の実態」の一部を構成する項目にすぎません。ライブドアの場合には、「3.法的問題の有無(コンプライアンス)」がとりわけ重要な項目であり、その重要性は、昨年の和解の合意がなされた4月の時点で、十二分に判っていたことなのです。
<付記>
テレビ井戸端会議(2月12日、テレビ朝日のサンデー・プロジェクト)で、フジテレビのデューデリについて、公明党の冬柴幹事長が、
『別々の2つの専門調査機関が1ヶ月もかけて徹底的に行った』
と言っていました。
もっともこの話は、同席していた自民党の“偉大なる”幹事長である武部さんをサポートするために持ち出されたものですから、事実かどうか定かではありません。2つの専門機関が1ヶ月もかけて徹底的な調査を行ったにも拘らず、ライブドアの不正の実態が判らなかったくらいであるから、調べる時間があまりなかった自民党としては、ライブドアとか堀江貴文氏の実体が分らなかったとしても責められる筋合いはなく、当然のことであると、なんだか訳の分らない詭弁を弄してエールを送っていたのです。
小泉首相が先日の国会の委員会質疑において、堀江貴文という人物をあのときはマスコミだってさんざん持ち上げていたのではないかと、得意の詭弁を用いて、話をスリかえてゴマかしていたのと同様に、冬柴さんも話をスリかえてゴマかしています。
自民党の責任は、別個独立したものであって、フジテレビがどのような判断をし、どのような行動をしようとも全く関係のないことです。民間企業とは比較にならない位の制度上の恩恵を受け、それだけにより大きな責任を課せられている政党について、一民間企業と同じようなレベルで考えること自体間違っています。冬柴さんは、結果責任と説明責任とを厳しく求められている政治家とか政党というものをどのように考えているのでしょうか。
なかでも公明党と自民党は、日本の舵取りを付託されている政権与党なのですから、口先だけのいいかげんなゴマかしだけは、願い下げにしていただきたいものです。
思うに、このお二人に竹中平蔵さんを加えた三人衆は、小泉劇場の確信犯的演出者とでも言える存在ですから、あるいはナチス・ドイツの宣伝大臣であったゲッペルスのような役割を果したと言えるかもしれませんね。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
“邯鄲(かんたん)の夢を貪(むさぼ)る檻の中” -蛾遊庵山人。
(“蝶になったり花になったり” ~下の句付け。蛇足ながら今一句。“邯鄲の夢かうつつかフジテレビ 青くなったり赤くなったり”)
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LDやLDMの監査を行っていたという港Y監査法人は一体何をやっていたのであろうか。LDの共犯者であったとしか思えない。
とはいえ、この監査法人は、一時「適正意見」を出す根拠が得られなかったことを示す「意見差し控え」を、監査報告書で表明することも検討したらしいが、これに対し、監査役の弁護士らは同期決算を「適法である」とする意見書を作成、監査法人側に示した。このため、監査法人は意見書に従って最終的に決算を妥当と結論づけ、「適正意見」を表明した。でも、何で監査役の弁護士らが「適法である」としたら、あっさり適正にしてしまうでしょうか。やっぱり監査法人は立場が弱いのか?
本当の犯人はクロをシロと言わせた監査役の弁護士だったということであろうか。まさに三百代言である。もちろんその背後にはホリエモンを中心とする悪の棟梁がいた。
耐震偽装の建築士を連想した。建築士の背後にも悪の棟梁のO嶋社長がいた。
多額の金が動く所では人間が悪の本性をあらわすものであろうか。
>ライブドアというチンピラ・ギャング団と衆人看視の中で
おじちゃん衆人環視だよん。
フジテレビの経営陣はライブドアの事業状態、財務状態について報告を受けてある程度問題があることは分かっていたと思います。しかし、それを言うと自分たちにも表ざたにされると困ることがあるため無視したのではないでしょうか?。鹿内家との永年の確執の中身をマスコミに詮索されると過去の自分たちの非合法的経営が明らかにされると恐れたのではないでしょうか。
>過去にここのコメント欄でも紹介されたことのある公認会計士 磯崎哲>也さんが
>フジテレビのデューデリ前に書かれたブラックジョークです。
>
http://www.tez.com/blog/arc...
私のような素人は、当時フジテレビみたいな大会社をやり込める
ライブドアをやるなぁ、と思うくらいだったのですが
分かる人には今の状況が予測できていたのですね。
本来、弁護士や会計士というのは高い倫理性が求められる職業のはずであるが、ライブドアの事件やフジとの騒動において、倫理性が全く欠如し信頼性が全く無い者もいると言う実例が、また一つ増えた。いくら技術があっても、倫理性を欠いて悪い方向に使われると、世の中に害悪しかもたらさない。
裁判所という所は、実社会において全く役立たずである場合がある。そればかりか害をもたらす場合さえある。裁判官という人種の化石のような人となりをみただけでも、それは納得出来る。
フジテレビは、ライブドア株を高値で買わされたことは知っていたが、それを一般投資家に、さらに高値で買わせるために、テレビを利用したという意味でしょうか?
2月15日(水)
今晩は。本日の記事、最後まで拝見してきて私の駄句が掲載されておりびっくしました。お目にとまり光栄です。
私ももっと早く先生のブログにお目にかかれておれば、大枚をどぶに捨てるような愚を避けられたのではと、今しっかり臍を噛み締めているところです。
今回のライブドア事件、これは平成の「天一坊」とでもいう風に後世に残る事件かと思います。
このような史上に残る事件にいささかの関わりを持つにいたたのも何かの縁と苦笑する次第です。
これを機会にもう少し利口になりたいと念じますが、バカは何とかかもしれません。
せめて、先生のブログを今後も拝読し勉強させていただく所存です。
ありがとうございました。
フジテレビが、ライブドアと行ったことは、どうやら確信犯であったようだ。
刑法に「期待可能性」ということがある。
犯罪事実を認識し、しかし、その行為が違法だということを知る可能性があったときには、通常その行為は非難することができる。しかし極めて例外的には、行為が違法だと知っていたとしても、なおその行為をやらざるをえなかった、その行為をしたのはやむを得なかった、といわざるをえない場合もあるのではないか。このような場合、すなわち他の正当な行為を期待することができなかったときは、犯罪は成立しないとすべきではないか。これが期待可能性の問題である。
フジテレビがライブドアに対してやったことが違法であったとしても、なおその行為をやらざるをえなかった、その行為をしたのはやむを得なかったのではないか、他に期待可能性がはたしてありえたのであろうか?
あの時、もし他に明らかに違法ではない「大人の解決」法がありえた、というのならぜひ山根さんに指南していただきたいものである。
フジ vs ライブドアの東京高裁の判決でも、あたかもライブドアが犯罪者組織、ギャンブルファンドではないかのような印象を与える事を言っていた、という背景事情もありました。安易に違法な和解をせずにあくまでもライブドアと徹底抗戦を続けようと言っても、一民間企業であるフジテレビには限界もあったと思います。あの状況下で、フジテレビがつぶれてしまうまでライブドアと戦い続けるというのは、大人の解決法ではなかったようにも思われます。
>[582]
>LDやLDMの監査を行っていたという港Y監査法人は一体何をやっていたのであろうか。LDの共犯者であったとしか思えない。
マスコミの論調や会計士協会の立場に立つと、「監査法人はライブドアに欺かれた」といった考えが正当化のために成り立ちますが、今回のはご指摘の通り共犯者にほかならず、どろどろの関係が容易に想像つきます。このような上場会社を上場させていた東証の責任、上場に際し審査した証券会社の責任も追及されるべき。
ライブドア社内のマンパワーだけでは到底不可能な複雑なスキームです。裏にいる小林元、大橋俊二などの職業専門家がいたからこそできたものと見られます。
ホリエの「何でもカネで買える」発言は、職業専門家の魂まで買ってしまったともとれます。
しかし、地検の捜査後、これらの職業専門家は手のひらを返したように捜査に全面的に協力(実際には本当に騙されたのかもしれませんが)しているようで、立件は難しい情勢と聞きます。すべて会社の指示に従ったといえば済むし、これらの専門家がこうした事態を想定し証拠が残らない工作をしていても何らおかしくないからです。
>とはいえ、この監査法人は、一時「適正意見」を出す根拠が得られなかったことを示す「意見差し控え」を、監査報告書で表明することも検討したらしいが、これに対し、監査役の弁護士らは同期決算を「適法である」とする意見書を作成、監査法人側に示した。
これは監査調書にこうして記述を残せば、「自分たちは見抜けなかったのではなく気づいていたけど会社の指示でやむなく黙認せざるを得なかった」と抗弁する有力な証拠になるでしょう。
しかし、気づいて見過ごそうが、そもそも気づかなかろうが、投資家にとっては「監査の失敗」に変わりがありません。
>このため、監査法人は意見書に従って最終的に決算を妥当と結論づけ、「適正意見」を表明した。でも、何で監査役の弁護士らが「適法である」としたら、あっさり適正にしてしまうでしょうか。やっぱり監査法人は立場が弱いのか?
会社が作成する上場企業の決算書を第三者の立場でお墨付きを与える監査法人が意見表明しなきゃ何のために会計監査制度があるのかわかりません。監査法人として全く機能していません無用の長物。しかし、監査役会が会計監査人の意見を無視して適法意見を付けたのをはいそうですかって適正意見を表明したのも、だれが監査しているんだって感じです。監査役会はなにをもって「適法」としたのでしょうかね。「普通、会計監査人の適正意見がついているから、決算は適法と結論付ける」のですから、まったくプロセスが逆です。
>[591]
>フジテレビが、ライブドアと行ったことは、どうやら確信犯であったようだ。
「確信犯」の意味をもう一度勉強しましょう。
>[593]
経営政策上の確信に基づいて行われる犯罪という意味ですが。経営にも思想があると思います。
ホリエモンが拘置所での取り調べで、頑なに否認を続けているのは、やはり彼の経営に関する思想に基づいて行った確信犯だからではないかと思います。
フジテレビがホリエモンの確信犯に同調して手を結び共犯者となったという所が、疑惑の焦点なのではないかと思います。